記憶をひもといて:マヨネーズ

 久々にてマヨネーズをつくってみた。作業中、記憶は独りでに年月を遡る。

 急に思いたって作ったのは家内の一言。「使ってるマヨネーズ、ひどい製品ね。口に入れた途端、すぐにわかる程化学合成品!」

 家内は病気回復後は塩気を減らし、野菜類は調味料無しで食している。味覚は鋭敏になっているのだろう。

 マッサージ修業中なら確実に解かる検査方法があつた。今は辞めて確かめられないが。検査の方法というのは他でもない。

 或る時、先輩からいとも簡単、当り前の如く訊ねられた。「尿療法はもう試してみましたか?」朝一番、最初の尿は避け、コップ一杯の尿を飲む。治療代はゼロ。用意するのはコップ一つと強い意志。気にはしていたが「まあいいか」と実施を先延ばしにしていた。どうも避けては通れないらしい。

 元且を期に始めたが、初日はコップ三分の一にした。さしたる抵抗もなく、以来丸二年間つづけ「もういいか」と辞めた。何が変わったか。自分でも分からない。それ程身体に故障があった訳でもない。強いてその効果を捜せば、あの二年間、便は規則正しく、順調だったのは尿療法のお蔭かと思ったりするが定かではない。唯一の発見は、前日ろくでもないものを食した時は、翌朝の尿は辛く、塩っぽかった。現在使用中のマヨネーズもあの頃試しておけば回答があったはず。現在は家内の舌を信じることにした。

 そのこととは別に、マヨネーズを作りたいと思ったのには訳がある。着伯(ブラジル)当時、炊事当番は私の役目だった。レパートリーが少なく、マヨネーズがあればその数が増やせると、ふんだんにある卵を使ってトライしてみるのだが、何が間違っていたのかクリーム状になることを祈りながら、何回も何回も試すのに、黄色味を帯びた水溶液が、ボーロの中で踊っていた。万事休す、と人に訊ねた。

 一番失敗の少ないやり方は、黄味と油とを最初に混ぜ、酢と調味料は最後に混ぜること、と教わって成功をみた。調子に乗って白味も使い、一個の卵で油一?近く混ぜたりして楽しんだ。

 そんな記憶がしっかりしているのに、あろうことか卵と酢を最初に混ぜ、「あっ」と思ったが後の祭り。

 が、徐々に油をまぜていくと、おいしいマヨネーズが出来上がった。そうすると、あの頃の失敗の原因が益々わからなくなる。

 電気がない時代で、ランプの光では炊事がやりにくいので、暮れ行く太陽と競争するかの如く、気忙しく台所で動き廻っていた。決まって飼猫が近づいて来て、脚にまとわりつく。時々おねだりの声を出し、時には尻尾を踏まれ「ギャー」と叫ぶ。

 今考えると気持ちの余裕がなかったせいではないのだろうか。混ぜ順に関係なく、マヨネーズは出来ている。そんなことって、ありますか?