サンパウロからの小話06 サンドイッチ(A 鎌谷)

 問題解決の手助けをしてもらいたくて、公立の「よろず相談所」へ出かけて行った。十時半に着いたのだが、こういう場所の常として、既に十人からの人が待っていた。受付に行って用件を言うと、私の一件は別ケース、ここで待てという。嬉しいことに私が先着一番だとも。何時から始まるのかとの問に、十二時半だという。あと二時間か。本当に時間厳守で、短時間で終るのか?朝から何も口にしていない。どこかで何か腹に入れておいて方が無難だなと考えてブラリと外に出た。

 役所は静かな高台にあり、周囲の家並みに適応したシッキなスナックをみつけた。昼食替りにと値段の張ったメニューを頼み待つこと暫し。建物の構えからして昔はちょっとした店だったらしく、或る年の最優秀店舗に選ばれていた。さぞかし美味しいサンドイッチが出てくるものと期待は高まった。

 それは力士かレスラーが食べるにふさわしい巨大なサンドイッチが運ばれてきた。付合せのマヨネーズやケチャップをかけても半分食べるのがやっと。大きさにはド肝を抜かれたが調理人が交替したのか、お世辞にもかつての輝きは感じられなかった。

 サンドイッチを昼食がわりにしたのはもう随分昔のこと、と初めて食べたあの時のニガイ経験を思い出した。

 その日は大手スーパーに日本製プラスチック容器を売り込むべく30分前から指定の場所で待っていた。営業マンは私一人。話は早く終るなとの感じがした。

 一時間が過ぎたが音沙汰なし。二時間待った。それでも責任者は顔を見せない。更に30分我慢して待った。昼食の時間はとっくに過ぎている。これ以上待つのはムリだと腹ごしらえに外に出た。遠くに行くわけにはいかない。何たることか、見渡せる範囲では、サンドイッチを売る店だけしか目に入らない。

 代用食という言葉がある。食糧難の時代に育った者の一人として、食事の時はご飯と決め、かたくなにそれを守ってきた。子供たちが成長して、日曜日はマカロニと決めた時でも白ご飯は炊いてもらっていた。それなのにサンドイッチがご飯替わりか。「あぁ・・・・」

 初めて口にする有名チェーン店のサンドイッチとそれのつき合わせ。時間を気にしながら食べ終わった時には腹の虫もおさまって、そしてくやしいことに美味かった。子供たちが昼食替わりにする訳がわかったけれど、初めて口にしても美味しいと感じるように開発、工夫されたこの食物を常食として育ち、大人になった時味覚の原点は幼児期の体験を通じて形成されるというから、彼らの味覚はどうなっているのだろう。

 時代と共に食物も変わっていくのはやむないことなのか。

 急いで戻り更に一時間半、あらぬ方面からやってきた担当者の第一声、「忘れていた。別の日にもう一度約束しよう」。

 こんないい加減な担当者とは金輪際もうご免蒙りたいと敬遠した。